活動方針
島根県芸術文化センター
島根県芸術文化センターは、「島根県立石見美術館」と「島根県立いわみ芸術劇場」の複合施設です。この施設は、石見地域の芸術文化拠点として、美術や音楽、演劇などの分野が相互に協調し、誘発し合いながら、多様で質の高い芸術文化の鑑賞機会を提供します。また、石見地域にはぐくまれてきた文化を大切にしながら、地域とともに新しい芸術文化を育むとともに、その創造をめざします。
活動方針
- 芸術を身近に感じる仕組みづくり
- 芸術文化を通したネットワークの支援・育成
- 非日常空間の提供
- 世界に目を向けた情報発信
島根県立石見美術館
- 幅広い視野で多彩な企画展を開催します。また、テーマ性をもった質の高い常設展示を行います。
- 地域や分野、年代にとらわれず、優れた国内外の作品を収集します。
- 美術作品の収集、および展示、保存、また教育普及に関する調査研究を行います。
- 美術に関する理解を深めるための講演会やワークショップなどの教育普及活動を行います。
島根県立いわみ芸術劇場
- 芸術文化を鑑賞する場として、また創造する場としての活動を行います。
- 優れた芸術文化に接することができるよう充実した自主事業を行います。
- 舞台芸術に関する研修機会を提供します。
沿革
平成12年9月 | 島根県芸術文化センター(仮称)整備基本計画策定 |
平成12年11月 | 島根県芸術文化センター(仮称)設計競技参加7社を決定 |
平成13年3月 | (株)内藤廣建築設計事務所案を設計競技の最優秀作品に決定 |
平成14年11月 | 建設着工 |
平成17年3月 | 本体工事竣工 |
平成17年10月8日 | 開館 |
平成19年7月20日 | 第48回BCS賞(建築業協会賞) 受賞 |
平成19年2月6日 | 第14回しまね景観賞大賞 受賞 |
平成20年9月 | 第14回甍賞金賞 受賞 |
平成20年10月 | UD賞(アーバンデザイン賞)2008 受賞 |
平成22年10月 | 第12回公共建築賞・特別賞 受賞 |
平成25年1月 | 平成24年度地域創造大賞(総務大臣賞) 受賞 |
建築コンセプト
「建物は街に語りかけている」
内藤 廣(建築家)
この建物は、全国でも珍しい美術館と劇場が一体になった建物です。益田のみならず石見地方の文化の拠点となる大きな使命を背負っています。澄田信義知事の英断と、関係者の不屈の精神によって完成の日を迎えました。敷地面積36,000m²、延床面積19,000m²、コンクリート32,500m³、鉄筋4,400t、型枠面積132,000m²、膨大な資材と労働力を緻密な計画のもとに投下した成果です。
総鉄筋コンクリート造りの建物を、光彩を放って覆っているのは石州瓦です。屋根瓦12万枚、壁瓦16万枚。極めて耐候性の高い石州瓦が、雨風から建物を守っています。壁にこの素材を使うのは全国でも初めてです。壁に使われた石州瓦は、屋根に使われる時とはまったく異なる風合いを見せます。石州瓦独特のガラス質の表面が時事刻々変化する独特の表情をつくり出します。石見地方の人達が見慣れた身近な材料が、壁に使われることによって誰も見たことのないものに生まれ変わったのです。赤茶の素材色がそのまま見える時もあるし、光の角度によっては金色に輝きます。不思議なことに、青空が広がれば薄いブルーに色変わります。夕暮れ時にはわずかに緑色になります。まさにこれまで誰も見たことのない壁の表情です。さらに、この壁の質感はメンテナンスフリーです。この建物が存続する限り、数百年はこのままの状態を保ちます。
一般に、現在の建物の用途や機能の原型は、ルネサンスに源を発しているといわれています。ルネサンス以降の建築の大きな特徴は、王侯貴族などの限られた人たちだけの館商品であった芸術や音楽が、徐々に大衆に開かれていく過程で姿形を変えてきました。美術館や劇場といった建物の形式はその典型と言えます。この建物の企画の際立った特徴は、長く袂を分かった美術と音楽が一つの場所に集まり、地域再生の文化的な拠点となることです。
美術館、劇場、各々に求められる機能は現代的な技術を結集したものです。これだけの規模の建物ですから、中で起きてくる活動内容も様々です。それらをまとめあげる強い求心力を持った何かが必要です。この建物では、回廊を巡らした大きな中庭が様々な機能をまとめ上げています。中庭の大きさは45m四方、中央には25m四方の鏡のように静かな水盤があります。この水盤は、普段は天空を映し出して建物に静寂を与えていますが、中庭で催しがある時は消えて無くなり、広場に変身します。
様々な機能の集合体であるこの建物は、その規模からして一つの街区のようなものです。ここから益田の街の未来が広がっていきます。建物は街に語りかけているのです。ここから始めましょう、と。
受賞歴・掲載暦
BCS賞
(社)建築業協会(Building Contractors Society)は、2007年7月20日付けで第48回BCS賞(建築業協会賞)」15作品の決定を発表しました。
報道発表の際にも「島根県芸術文化センター(グラントワ)」は筆頭にあげられ、「建物の外壁に石見地方特産の石州瓦を用い、地域の固有性をうまく出すとともに、造形的にも施工的にも見事な内部空間を見せている」と、高い評価を得ています。
第14回しまね景観賞大賞
島根県芸術文化センター「グラントワ」は、石州瓦の家並みが並ぶ美しいしまねの景観を第一に意識した表現が評価され、第14回しまね景観賞大賞を受賞しました。
第14回甍(いらか)賞金賞(経済産業大臣賞<一般部門>)
第14回「甍賞瓦屋根景観等・設計実施例コンクール」(主催:全国陶器瓦工業組合連合会、社団法人全日本瓦工事業連盟、毎日新聞社)審査委員会による審査において、島根県芸術文化センター「グラントワ」(設計者:内藤廣建築設計事務所)は、受賞作品に決定されました。
審査は1次、2次、最終の3段階で審査委員9名の投票により行われ、「グラントワ」は1次の段階ですでに最多得票を獲得した作品でした。
なお、第14回の甍賞は、全国の応募作品89件の中から16件が入賞作品に選ばれ、うち最高の金賞(経済産業大臣賞<一般部門>1件と国土交通大臣賞<住宅部門>1件)は2作品が受賞しました。
UD賞(アーバンデザイン賞)2008
島根県芸術文化センター「グラントワ」は、アーバンデザイン研究体(UDM)により発表された「UD賞(アーバンデザイン賞)2008」を受賞しました。
建築環境と外部空間のデザインを取り入れ、また地域の伝統的な素材を現代建築へ使うことにより、ハードの建築だけではなく地域の持つ文化を建築物や外構へ融合させたことが評価されました。
第12回公共建築賞・特別賞
島根県芸術文化センター「グラントワ」は、(社)公共建築協会により発表された、第12回公共建築賞・特別賞(国土交通省大臣官房官庁営繕部長表彰)受賞3作品のうち1作品に選ばれました。この賞は数ある建築賞のなかで、特徴として公共建築物を対象としていることのほかに、評価の基準として、設計施工が優れていることに加え、地域社会への貢献や施設の管理、保全といった視点からも評価が行われています。
掲載誌
- 『美術1』平成19年度用、光村図書出版株式会社 2006年(高等学校用芸術科(美術)文部科学省検定済教科書)
- 『Pen』阪急コミュニケーションズ 2006年
- 『Casa BRUTAS』マガジンハウス 2006年
- 『内藤廣/インナースケープのディテール』彰国社 2006年
- 『THE JAPAN ARCHITECT. 46』新建築社 2002年 ほか
主要施設

大ホール
島根県内最大面積の舞台に最新の吊物機構や走行式音響反射板などの設備を備え、ミュージカルやコンサートなど多様な舞台芸術を上演できます。1,500人収容(1階993席、車イス4席、2階503席)の客席は、舞台を見やすいよう舞台に向かって緩やかな円弧状に配置されています。

展示室
趣向の異なる大小4つの展示室を活かして、スケールの大きな企画展を開催します。また、森鴎外ゆかりの美術家の作品、石見の美術、ファッションなど、所蔵コレクションも展示します。

小ホール
吊物機構や音響反射板などの設備を備えた舞台では、演劇や室内楽、講演会などが上演できます。客席は400人収容で、舞台との近さが身近な雰囲気を醸し出します。 また、最新のデジタル音響に対応した35mm映画の上映もできます。

美術館ロビー
総合案内カウンターでは、美術館や劇場など館内の催し物についてのご案内や美術館のチケットを販売しています。 アートライブラリーは、美術や音楽に加え、映画やファッション、建築などの専門書や雑誌を自由にご覧いただけます。またパソコンも設置されており、配架されたCDやDVDなどをご鑑賞いただけます。

回廊
回廊の床材には、花梨を使用しています。各所に設置されたベンチに座って中庭広場を眺めていただくこともできます。

多目的ギャラリー
自由な作品発表の場として活用いただけます。また、様々な教育普及活動も実施します。

スタジオ1
大ホール主舞台と同じ大きさのスタジオと小規模練習に適したスタジオ2の2室スタジオがあります。公演のリハーサルの他、ミニコンサートなどにも利用できます。

スタジオ2
大ホール主舞台と同じ大きさのスタジオと小規模練習に適したスタジオ2の2室スタジオがあります。公演のリハーサルの他、ミニコンサートなどにも利用できます。

中庭広場
1辺25mの水盤は、中央が最深12㎝のすり鉢状になっており、湧き出た水が四方に流れスリットから地下タンクに流入し循環しています。 風のない日は「水の鏡」が建物やまわりの風景を映し、水の流れる優しい音が響きます。
施設要覧
シンボルマーク
このシンボルマークは、島根県を示すアルファベットの「S」と石見を示すアルファベットの「I」で構成され、また日本海の遠望を連想させる奥行感も加味してデザインされたものである。アルファベットの「I」のオレンジ色のイメージは石州瓦の色を連想させるだけでなく、他の色との組み合わせで色彩豊かにすることで、美術館とホールの文化施設を晴れやかに謳い上げることをイメージさせる。
矢萩喜從郎
モニュメント
モニュメント「おろち」は御影石で製作され、日本を代表する石見神楽からイメージを継承した、“親しみのある”大蛇(おろち)をテーマとする。 おろちの「おろ」は、古語で、高い峰や丘を意味し「ち」は神を表す、竜・蛇形の鬼、神は地上、水中、空中に住み、宇宙を自在に支配する力を持つと云う。楽の音に乗れば一瞬にして天に駆け昇るエネルギーを秘めている、創造の自在神である。 美術・音楽をはじめ石見を代表する文化創造の殿堂となる「グラントワ」は、石州瓦に覆われて凛とした外観を持つ。この建築に呼応させるため、曲線によるリズム感を巨石に刻み環境に最も適した彫刻とした。 また、彫刻が隙間をくぐり抜けられる空間を包有すること。ベンチとなるおろちの背中、口や鼻の穴などは気軽に触れることができ、親しみのある彫刻とすること。なによりも、益田でしか見ることのできない「グラントワ」独自のモニュメントとなるよう留意した。 そして、これからの山陰地域が貴重な歴史遺産を中心とした地域の文化力を発信しつつ文化立県として今後大いに発展することを祈念し、心を込めて制作した。
澄川喜一
愛称
愛称は、全国からご応募いただいた16,456点の作品の中から、厳正なる審査の結果、山口県の河原央明さんの作品「グラントワ」に決定いたしました。 「グラントワ(Grand Toit)」はフランス語で「グラン=大きい」、「トワ=屋根」の意味を持ち、島根県が誇る石州瓦をもちいた切妻(きりづま)屋根が特徴のひとつである当芸術文化センターをうまく表現しています。同時に力強さ・雄大さ・広がりを感じさせる語感があり、芸術文化の拠点にふさわしい愛称として決定いたしました。